2018.02.18 日本農業新聞社 3頁 総合3面12版遅 (全1,121字) 

 農水省が土地改良区制度の見直し案をまとめた。現行の組合員に加え、これに準ずる「准組合員」を新設し、土地改良区組織を支える人材を確保する。安倍政権下では珍しく、生産現場の実態を踏まえた柔軟な見直し内容に落ち着いたと言える。ただ、組織の運営に関わる大きな制度改正だけに、国会での丁寧な審議が欠かせない。

 2016年に政府がまとめた農業改革の方針「農業競争力強化プログラム」では、土地改良区の在り方を見直す方針が盛り込まれた。農協改革のように過激な組織改革に切り込むのではないか──。そんな懸念を抱く関係者も少なくなかった。

 だが、ふたを開ければ「久しぶりに評価できる農業改革」(自民党農林議員)になったとの受け止めが与党に強い。

 見直し案の目玉となるのが、准組合員制度の新設だ。組合員のように議決権や選挙権はないものの、総会に出席する権利を持ち、発言できる。

 事業費用に充てる賦課金を負担する組合員は耕作者がなるのが原則だが、実際には所有者のケースも少なくない。世代交代が進んで農業に関心の薄い「土地持ち非農家」の所有者が増えれば、事業が思うように行えなくなる心配がある。そのため組合員を耕作者主体にすることが大きな課題となっている。

 とはいえ、一気に組合員資格を耕作者に絞り、経験のある所有者が土地改良区の運営から退けば、混乱が起きかねない。そこで耕作者にまず准組合員になり、いずれ組合員になる、という段階的な交代を進める。

 土地改良区の人材確保に向け「参加組合員」も新設する。多面的機能支払いの活動組織などを対象に、水路の維持管理などに取り組む代わりに、総会に出席して発言する権利を持つことができるようにする。

 安倍政権では、農協改革や生乳の流通改革など過激な農業改革を推し進め、生産現場の農政不信は高まっている。だが、今回の見直し案には、農業関係者からも目立った異論は聞こえてこない。

 とはいえ、懸念が全くないわけではない。その一つが会計の厳格化だ。土地改良区の会計は現在、簡易な「単式簿記」が中心だが、資産・負債の増減を把握できる「複式簿記」を原則導入する。

 土地改良区が扱う予算が増える中、会計の透明性を高めることは必要な措置だろう。だが、人員が少なく、対応に苦慮する小規模な土地改良区も少なくない。農水省は国が必要な支援を行うとしているが、具体策はまだ示していない。

 同省は制度見直しの詳細を詰め、必要な土地改良法の改正案を今国会に提出する。見直しに伴う懸念は他にもないのか。そもそも農業の生産基盤を将来にわたって維持していくのに今回の見直しだけで十分なのか。与党内だけではなく、国会で丁寧に議論する必要がある。

日本農業新聞社

 

▼▼▼PDF版はこちらから▼▼▼

https://www.iwatochi.com/main/06/osirase/osirase692.pdf