2017.05.25 地方版/香川 26頁 写図有 (全521字) 

 幼い姉と弟が水死した三豊市豊中町下高野のため池「裏新池」を巡る損害賠償訴訟。高松地裁は24日、ため池を管理していた豊中町土地改良区の瑕疵(かし)を認め、1115万円の賠償を命じた。遺族は判決を評価する一方、県内には安全対策が十分とは言えないため池も数多くあり、判決は大きな影響を与えそうだ。

 判決後、2人の父で原告の男性(47)が記者会見し、「事故後、毎日仏壇に向かって泣き崩れる日々だった」と心情を明かした。その上で「子どもの死を無駄にしてほしくない。これを機に、他のため池の安全管理も見直してもらいたい」と訴えた。

 裏新池は車道に面し、フェンスがないのり面からは子どもでもよじ登ることができる。近くに住む男性(64)は「子どもは危険かどうか判断できないことがある。フェンスがあったら、事故は防げたのかもしれない」と話した。

 県によると、渇水に悩まされてきた県内には約1万4600ものため池があり、都道府県では3番目に多い。県は訴訟の中で、フェンスが設置されていないため池が多数あることを認め、安全性に問題はなかったと主張してきた。判決を受け、県土地改良課は「地元と協議して更なる安全対策も検討していく」と説明した。【山口桂子、潟見雄大】

毎日新聞社

 

「安全見直す契機に」 三豊・ため池死亡 判決に父親=香川

2017.05.25 大阪朝刊 28頁 写有 (全1,001字) 

 「子供の喜ぶ姿が浮かぶ気がします。このような事故が少しでも減るよう願っています」。2015年3月、三豊市豊中町下高野のため池で、近くに住む矢野龍毅ちゃん(当時5歳)が溺死したのは豊中町土地改良区などの安全対策が不十分だったからだとして、父親の雅一さん(47)が損害賠償を求めた訴訟の判決。雅一さんは目に涙を浮かべながら判決を聞き、その後の記者会見で心境を語った。(岸田藍、松本慎平)

 「パパ、お菓子買いに行こう」。事故の数時間前、仕事から帰ってきた雅一さんを、長男の龍毅ちゃんは自宅の外に出て出迎えてくれた。「前の日に買いに行ったでしょ。今日はそれを食べなさい」。まだお菓子がたくさんあったので、なだめるように言った。

 その後、外で遊んでいた龍毅ちゃんの姿が見えなくなり、午後8時35分、池にうつぶせで浮いているのが見つかった。「あのとき龍毅が好きなチョコレートを一緒に買いに行っていれば、事故は起きなかったかもしれない」と自分を責め続けた。

 その5年前には、同じため池で次女の麻弥ちゃん(当時3歳)も亡くした。雅一さん譲りのくせ毛で、いつも元気いっぱい。「今日は麻弥ちゃんがパパと寝る」とよくなついてくれた姿を今でも思い出すという。

 ◆外周にフェンス 設置一部だけ

 麻弥ちゃんの死後、雅一さんは当時ため池を管理していた県と市に安全対策を強く要望。外周の一部にフェンスが設けられたが、約230メートルの全てではなかった。「対策が不十分だと言い続けたのに、事故が起きた。2人を亡くしてからは、地獄のような日々だった」という。仕事からの帰途、子供たちが亡くなったというのはうそで、家で出迎えてくれるのではないかと半ば本気で思い、仏壇の前で泣き崩れる生活を送った。

 提訴から1年8か月の道のりはとても長く、何度もあきらめそうになった。それでも、子供の笑顔が浮かんできて「パパ、がんばれ」と言われている気がした。傍聴にはいつも2人の遺影を持って行き、子供たちと一緒に闘っているつもりだった。

 「この訴訟がため池の安全管理などを見直すきっかけになれば、子供たちも浮かばれると思う」と静かに語った。

 土地改良区は「判決内容を精査し、理事会を開いて対応を検討したい」とした。

 写真=途切れたため池のフェンス(三豊市で)

 写真=(上)矢野龍毅ちゃん(下)麻弥ちゃん=いずれも遺族提供

 写真=判決後、記者会見に臨む矢野雅一さん(中央、高松市で)

読売新聞社

 

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