(技術交流の背景)
平成27年11月、日本・インドネシア両国間の友好関係の一層の強化のため、ジャカルタを訪問した「日・イ文化経済観光交流団」団長二階俊博(日・イ国会議員連盟会長)は、ジョコ・ウィドド大統領との懇談のなかで、「農業分野での協力として、インドネシアで検討を進めているコメの増産に向けた灌漑施設について、要望があれば支援を前向きに対応する用意があると述べた。これをうけて、日本は円借款事業としてハード整備(頭首工、幹線水路等の改修、水管理システム整備)と、事業の効果を高めるための技術協力(ソフト支援)を行うこととし、平成28年9月25日から28日にかけて第1回日・イ技術交流として技術交流調査団(団長農林水産省農村振興局室本隆司次長)を派遣、技術課題についての意見交換が行われた。
(技術交流:調査団)
調査団は農水省5名、農研機構1名、JICA1名、土地改良区関係18名(全土連1名、県土連4名、土地改良区13名)の他、現地大使館1名、現地ASEAN1名で組織され、本県からは、参加要請に応じた岩手県土地改良事業団体連合会農村振興部農村整備課工藤将英課長補佐、胆沢平野土地改良区水利整備課施設係佐々木渡係長が一員として参加した。
(技術交流:意見交換会)
公共事業省(日本でいう国土交通省)において意見交換会が行われ、インドネシア側より現状の報告、日本側よりかんがい排水政策の現状の報告と、日本のかんがい排水分野における取り組みを発表した。
インドネシア側は、「近年、かんがい面積は急速に拡大してきているが、灌漑用水の普及が遅れており、89%の農地は川から直接取水している現状にある。よって、灌漑用水の有効利用による食料の安定生産を重点課題とし、インフラ整備の他、水の管理システムの重要性に着目している。」と述べた。これを受けて、室本団長は、「日本では、土地改良区、それをサポートする県土連、全土連が組織され、これらが行う水管理システムの取り組みは世界的に高い評価を得ている。また、需要供給型の水管理システムは、インドネシアでも参考になると思う。」と述べた。
意見交換に引き続き行われた調印式では、日・イ両国のかんがい排水分野の発展を促進することを目的に、毎年1回、交互に訪問し、政府間の政策対話、技術交換セミナー、現地視察等の交流を実施することを合意した。
(現地視察:ジャティフールダム)
総貯水量30億トン、コメの生産量拡大を主目的に建設され、24万haの水田に用水供給しているほか、洪水調整、水力発電(187.5MW(メガワット)を発電)、工業用水・上水道用水の供給の役割を担っている。
農業用水は100km以上離れた首都ジャカルタも受益としている。また、インドネシアでは、雨季に年間の約8割の降水量があることから、洪水吐き能力は4,000m3/s、越流堰の堰長を確保するために、洪水吐きを円形にしているのが特徴的である。
(現地視察:Curug頭首工)
ジャティフールダム下流約10kmに位置し、西、北、東へ分水する。
分水はポンプで行われるが、河川本線の水頭差による水の落下エネルギーでポンプの羽根車を回し、水をくみ上げる方式、動力を用いないことから維持管理費がきわめて安価であることが特徴的である。管理者(エンジニア)は、「動力式のポンプに比べ効率は若干劣るが、当時開発したインドネシアの教授は先見の明があった。このポンプはインドネシアの“誇り”である。」と話していた。
(現地視察:ルンタン灌漑地区)
約90,000haの灌漑面積を有する。施設老朽化、機能低下が著しく、また、それを適切に運営するための維持管理体制の強化が課題となっており、円借款事業による支援を検討中である。写真は、チョポン頭首工の沈砂池、沈砂部分が118mと長いのが特徴的であるが、河川水に含まれる砂は微細であり、一週間で沈砂池が満杯になる。
(おわりに)
“百聞は一見にしかず”インドネシアは、人口が世界第4位ということもあり、市街地、農村部に限らず、人が溢れているように感じた。少子高齢化の問題に悩む日本とは異なる状況にある。また、宗教的、気候的な違いが、日本人との価値観の違いに顕著に表れていると感じた。今後、継続的に行われる資金的、技術的協力は、これらの違いを互いに理解しあい進めていくことが、両国の発展に不可欠であると感じた。
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